「北京ヴァイオリン」鑑賞。

監督は「さらば、わが愛 覇王別姫」のチェン・カイコー。
「さらば....」は京劇を土台にした悲哀物語であるが、「北京....」はクラシックを土台にした父子物語である。この2作品、カラーが似てるのはなにも双方芸術的なだけだからではない。背景に中国の黒歴史、文化大革命を背負っているからである。

愛する者と愛される者のささやかな望みをも打ち砕く壮絶さを描ききった「さらば...」とは違い、「北京...」の方は大革命その後を描いてるのでそれほどの痛烈さはないものの、呪縛から逃れられないでいるあの時代を肌で感じた大人たちを見事に描き分けている。
ある者は清々とした旧き良き中国に縛られ、またある者は市場主義のグローバリズムを善しとし振り返らず突っ走る。
古来中国は時代時代で過去を破壊して建国を繰り返してきた国だからこの革命もそうなんだが、現代の未だ忘れ得ぬ負の部分をこれほどまでにきちんと見据えて作品にできる監督はチェン・カイコーをおいて他にはいないだろう。ま、香港人だから多少冷静に見ることができるってこともあるんだろうけど。

作品の中で父親が”我々は文化大革命で貴重な時間を失った。息子にはそういう思いはしてほしくない”的な事を言うが、これはチェン・カイコー自身の本心なんだと思う。

過去を無かったことにせず、でも、世界を見据えて前進する。
日本人には多少都合良い詭弁に映るだろうし、映画自体もあざとい部分が見え隠れするところはある。とはいうものの、現代の中国がこれほどまでに躍進する理由と、中国人の凄さの一端を垣間見ることができる作品ではないだろうか。

中国に抜かれつつある邦画界であるが、安穏としているとアジアン・ムービーという括りに飲み込まれて邦画は影も形も無くなる気がしてならん。アニメとエロしか残らないってんじゃー子孫に申し訳が立たんではないか?

ストーリー自体はたいしたことないが、そんなような危機感を持ってしまった映画であった。

63点

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