人工的化合物と天然素材、身体に良いのはどっち?

という質問をされると十中八九「天然」と答えるだろう。たしかに化学物質の中には人体に甚大なダメージを与えるものが多い。しかし、そういった毒性の強い化学物質は天然ものにも含まれる。「人工品」の化学物質のリスクには非常に敏感なのに「天然品」のそれには驚くほど鈍感だ。
これは人は直感的に「良いもの」と判断されるもののリスクを低く見積もり、「悪いもの」とされるもののリスクを高く見積もる傾向にあるからだ。

また、飛行機と自動車の事故の死者数を比べると統計上は明らかに車の方がリスクが高いはずなのに、自動車の方が安全と誤解しがちである。これは頭で考える合理的リスク判断と恐怖や畏れといった直感的リスク判断があり、人々は直感的リスク判断をした後、合理的リスク判断をするのだが、「落ちたら死ぬ」という恐怖のせいで「実は自動車事故で死ぬ人の方がはるかに多い」という合理判断に至らないせいである。

この差をうま味だと気付いた輩こそが今伸びている企業・集団・組織である。そしてそのミスリードによって世界は回ってしまっているといっても過言ではない。

例えば癌。死因の主要因であり今後多くの人が癌で亡くなるだろうと訴える。確かに今後はこれまで以上に癌で死ぬ人は増えるだろうが、人口増加と平均年齢の高齢化を前提としていることを案内している企業は少ない。実は人口当たりの癌での死亡率は年々低下しているし発生率も増加してないのだ。資料を見ると癌で死ぬ人が増えたのではなく、他で死ななくなったから癌で死ぬようになっただけだというのがわかる。

例えば子どもが巻き込まれる犯罪。近年、小児性愛者などの変質者が関わった誘拐事件が多発しているように感じるが、この数も減りつつある。アメリカ人の子どもが誘拐される確率は608,696人に1人だ。ちなみにプールでの死亡事故は245,614人に1人、車の衝突による死亡は29,070人に1人の計算でこっちは増えている。でもプールの安全性向上や自動車の速度制限といった解決案が提示されることはあまりない。

それ以外にテロや麻薬、異常気象に遺伝子組み換え、肥満や農薬といったさまざまなものについても、直感的リスクに訴える案内だけが垂れ流されているのが現状だ。
この本は和訳本なので必ずしも日本を指しているワケではないが、あながちまるっきり違っているワケでもないと思う。


史上最も安全な時代にあり、かつてないほど健康状態のいいにもかかわらず、以前にも増して直感的リスクに怯えながら暮さなければならない我々はそろそろ目覚めないといけない。畏れは大事だ。でも反射神経的に畏れるばかりでは犬猫と同じである。英知をもって怠惰な畏れから脱却し、賢く畏まらなければならないと本書は教えてくれる。

久々に読み応えがある本読んだ。

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