「下妻物語」がドタバタの中に友情という青臭いメッセージを詰め込んだ活劇だとしたら、「茶の味」はちょっと変わった日常の中に家族愛というメッセージを包んだキネマであった。
共に茨城県の田園風景を舞台としながらも正反対のアプローチから描いた両作品は共に俺の心をグワッっと鷲掴んだ。左右に分かれて真っ直ぐ進んだら半周して同じとこに到達しちゃった、みたいな感じ。どちらも日本人を描いてる「邦画」として突出して優れてると思う。
「下妻」の中島哲也が黒沢なら「茶の味」の石井克人は小津である!といったら言い過ぎか?

内気な長男、アニメーター復活の為に奮闘する母、そんな母が面白くない催眠治療士の父、地元の元彼女に未練がある母方の叔父、漫画家の叔父は仕事に行き詰まり、小学一年生の長女は時折見える大きな自分の分身に戸惑っていた....

一見無茶苦茶に見えるキャラクターの設定とキャスティング、そしてCGの使い方はともすれば嫌みに感じるかもしれないが、俺は評価したい。
たとえば我修院達也があのキャラクターで役名も「アキラ」として登場してみたり、土屋アンナの制服には萌えファンも納得だろう。寺島進のやくざ役も型どおりでステキ。
三浦友和手塚理美夫婦も実力派らしい演技で安心して観られる。佐野忠信もいつもの演技ながら全然浮いてない。久々にばっちりハマってた。
ってそれだけじゃないのよ。ちょい役ですんげぇ人が出てるのだ。
中島朋子に樹木希林、草薙くん、庵野監督、岡田義徳、武田真治、和久井映見、竜泉に野村佑香...あぁ!書ききれない!!今をときめく高橋一生くんに、こんなところに森下能幸が!うそ!あの教頭が田中星児ぃ?!加瀬亮、水橋研二!!
俺一押しのミスタードーナツの相武紗季ちゃんも転校した女の子役で出てる。
いやぁ監督の交友関係の広さがわかるってもんである。
CM作家ってーのは15秒で勝負がつくから見た目のインパクトやスピード感が重要でそういった演出をする人が多いと思うのだが、今回、監督はビジュアル的にどうしてもCGを使わなければならない部分を除いて極力ロケーションを活かした画面を時間をかけて丁寧に撮った。こののんびり感がとても良い雰囲気を作り出してるし、心に染みるまでのタイムラグを上手に消化している。
って、そんなマニアックな鑑賞を強いてるワケでもない。
素直に観ていただければ、くっだらないギャグとギャグの間の優しさに気付いて、最後の夕焼けのシーンできっと心がポワッとあったかくなるだろう。

岡倉天心という人がいる。西洋文化が急速に広まった時代に日本の美術や文化を再認識させ、100年前のアメリカに『The Book of Tea』という茶の心と日本人の文化を紹介した偉人なのだが、この本にはこうある。(以下引用)

 茶道は、純粋な心、調和、相互の思いやりの秘訣、人間社会にあって欲しいロマンチシズム等を、じっくりと教えてくれます。その根本は不完全なものをこそ敬う心にあります。思い通りにならないのが人生ですが、出来ることだけでも仕上げてみましょうという、心優しい挑戦です。

(引用終わり)
この精神こそ「茶の味」で石井監督の書きたかったことであり、俺が感動した部分であるのだ。クレしんの「アッパレ戦国」と同じ琴線に触れたな。
あぁ日本人でよかった。 

晩年彼が住み着いた場所と「茶の味」の舞台が共に茨城であることは決して偶然ではない。石井監督、とんでもない監督である。

90点

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