人生80年のうち色恋で眠れなくなったり涙を流す期間というのは多く見積もって30年だろう。そのうちホントに駆け引きのないピュアな気持ちで相手を想い続けられる期間となると10年もない。若いうちのせいぜい5年か。
80分の5。人生のたかが6%強の体験がこれほどまでに人の心に深く刻まれて、切なさと共に反すうしてしまうのは、80年の人生の中でそれがかけがえのない思い出だからに他ならない。

「チルソクの夏」

誰もが心に持ちうるその珠玉の6%を淡々とそして丁寧に描いたノスタルジックなラブストーリー。「セカチュー」のような子供だましの絵空事ではない、70年年代後半の等身大の貴方が、俺がそこにいる風景をそのまま映画にした佳作である。

舞台は1977年7月下関、姉妹都市である韓国の釜山との関釜陸上競技大会を毎年交互に開催していた。釜山で行われた大会に出場した日本人女子高生郁子(水谷妃里)は同じハイジャンプの選手の韓国人の安(アン)と出会う。帰国前夜、安は戒厳令中にもかかわらず、郁子の宿舎まで会いに来る。淡い恋心を抱いた二人は来年下関で行われる大会に再会すると約束するのであった.....
日韓交流が今ほど活発で無かった時代である。韓国では日本の歌謡曲は禁止され、街には戒厳令がしかれていた。日本でも韓国と北朝鮮の違いも解らず朝鮮人というだけで差別をしていた。隣国でありながらお互いの意志疎通は片言の英語であったり、釜山では日本の電波が届くのでラジオから禁止されてる歌謡曲が流れるあたりはなんという皮肉であろうか。

主人公郁子の友人役の3人の女の子も陸上選手らしいスラリとした肢体と相まって好演であった。特に上野樹里の演技は群を抜いて素晴らしかった。「ジョゼと虎と魚たち」でも感心したが(「スィウングガールズ」まだ観てねぇ〜)100点満点だ。
安君と別れる展望台で4人が泣きながら歌う「なごり雪」のシーンはその演技力にオッチャンも涙しちゃったよ。

監督脚本は「半落ち」の佐々部清。この人が上手いのは小物から台詞、行動パターンに至るまで「その当時の中高生」を完全にトレースできてる点にある。
この「あーーあるある、そうだった」感はそのうち出てくる女子高生4人の無意味な着替えシーンの多用をもって「このオッサン、偏執者じゃなかろーか?」という疑問にかわるんだけど(笑)、とにかく山口百恵からピンクレディー、ツイスト、イルカ、石川さゆりといったごちゃ混ぜの歌謡曲ってやつをラジオで死ぬほど聴いていた40代前半から30代後半の方々が観たら熱いモノがこみ上げてくること必至。また下関出身で今回映画初出演の山本譲二の弾き語りも鳥肌もんである。ここも注目だ。

この映画は「町おこし」映画である。
山口県の方々と40歳前後のオッサンオバチャンというとてもターゲットの狭い作品なので大手配給会社がつかず山口県をはじめ西日本でしかロードショーされなかった。(突発的に大阪東京で上映されたけどね)
しかし青臭く古臭いこの青春ドラマはきっとみなさんの6%の想いを揺さぶるはずである。
あ、そうそう、日本海側の港町の方々は義務鑑賞。今すぐTSUTAYAに走るように。

90点

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