香港映画界から頭の悪いカンフー娯楽映画が駆逐されて20余年、ブルース・リーやジャッキー・チェンのDNAはチャウ・シンチーやトニー・ジャー(こいつはタイ人だが)といった次世代アクターに引き継がれるものの、純粋なカンフー映画が往年の勢いを取り戻すまでにはない。
対してジョン・ウーにはじまる香港ノワールは「インファナル・アフェア」三部作を持ってして、いよいよ完成形を見たといってよいだろう。実力ある若手俳優と制作者の集結、加えて世界中の技術を【香港映画】に咀嚼しモノにするどん欲さは他の追随を許さず、結果的に世界に誇る映画を作ることに成功した。

香港ノワールに関してはこちら参照↓
http://diarynote.jp/d/38325/20050502.html

さて「香港国際警察 NEW POLICE STORY」である。俺はこの映画を観るまで、この新旧香港映画の再戦をカンフー映画のリベンジとして捉えてた節があった。
ハリウッドでそこそこ成功するものの、ジャッキー・チェンは過去の人となりつつあったし、加齢からくる身体能力の衰えと決して上手とはいえない演技はそのまま興行成績に表れ、「シャンハイ・ヌーン」からこっちの成龍映画は目もあてられないダメっぷりを世界に晒すことになってたからだ。
そんなジャッキーが再び香港映画を撮ろうと思ったのをみて「出戻りだ」と感じてしまうのを誰が止められようか!

とまぁ一応の自己弁護をしたところで書くが、それは大きな間違いでありました。
難しいゴタクを並べて言うこと聞かない白人スタッフよりも現場なノリでシナリオを変えてしまうような同胞スタッフと仕事したほうがやりやすかった、という諸事情をさっ引いても近年のジャッキー映画としては最高峰に位置するだろう。
そしてなにより驚いたのは、この映画はカンフー映画を駆逐した香港ノワールに対するアンチテーゼではなく、香港ノワールすら飲み込んだ紛う事なき成龍映画として完成している点である。

確かにライティングやカメラワークは昨今の香港映画のような冷たい印象を与えるだろう。オープニングクレジットのインポーズなんぞはすごい洗練されててちょっとびっくりしたくらいだ。しかし、それは決してジャッキーじゃないとダメなワケではない。アンドリュー・ラウに作らせればもうちょっと深みのある演出で作れたはずである。故に前半を観た段階で「あー、ジャッキーもこういうの作るようになっちゃったか」と一抹の寂しさを感じていたが、香港の青島刑事が出てきたあたりからグイグイと引き込まれていったのだ。

部下の死の責任を感じてグズグズだった男が立ち上がる様、大いなる怒りを拳に秘めそれでもなお垣間見える慈しみの心....
仁・義・忠・信・孝、そして笑
シリアスシーンを台無しにするようなとこでも突っ込むシチュエーション・コントは香港映画お得意の芸当である。今回もしつこいくらい長時間にわたって一本のコントをやりきった。
そう、それこそジャッキーが、いやさ、香港映画人が画面の中に詰め込んだ心意気なのだ。
「酔拳2」を観よ!「五福星」を観よ!「スネーク・モンキー」を観よ!!!

ジャッキーにあってジョン・ウーにないもの、それはこのセンスなのだろう。もっともそのセンスがハリウッドでウケなかった遠因かもしれないが。でもいいじゃん、東洋人とイギリス人はわかってくれるから。

最後の対決シーン、あきらかに「インファナル〜」を意識した作り方であったが、オマージュではなく喰らったのだろう。パクったのとは違う。ちょっとインチキかもしれないけど、結果良ければ全て良し、という香港映画の特色を如実に現しているのだ。それはジャッキーが銃の早組み勝負でちょっとズルして勝つというプロットにおいて見て取れる。「どうだ!俺の勝ちだ」という表情、それはジャッキーから香港若手映画人向けて発せられた大いなる挑戦状のような気がする。

87点(「プロジェクトA」と同点)

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索